不要な経費を削減し、企業の利益を最大限確保したいと考えながら、どのような方法があるのか分からずお悩みの方もいると思います。
とくに人件費は、さまざまな経費のなかで多くの割合を占め、経営状況を圧迫する場合も多いでしょう。しかし、そんな人件費を削減する際、適切な方法で行わなければ企業の損失を増やすおそれがあります。
今回は、人件費の種類や理想的な人件費の割合、人件費削減で招く損失、適切な人件費の削減方法について解説します。
この記事を読めば、人件費の種類や適切な人件費の削減方法、業務を効率よく行い利益を最大限確保する方法についてわかります。ぜひ、最後まで読んで業務改善や経費の見直しに取り組んでみてください。
目次
人件費とは
人件費とは、企業が労働者に対して支払う経費のことです。しかし、雇用形態によって同じ労働者でも人件費として扱わない場合があります。
正社員やアルバイト、パート、契約社員は企業と契約し労働しているため人件費として扱われますが、派遣社員や業務委託で労働している場合は企業と直接契約を交わしているわけではいないため、人件費として扱わない場合があります。
また、企業を運営する側の役員が、労働契約ではなく委任契約を交わしている場合は、人件費として扱いません。
人件費に含まれるものは給与や各種手当以外に、賞与や退職金、福利厚生費、社宅費用、通勤定期券代などがあり、大きく分けると現物給与総額と現物給与以外の2種類に分けられます。
人件費の種類
人件費は大きく分けると、現物給与総額と現物給与以外の2種類に分けられます。現物給与総額と現物給与以外について、詳しく解説します。
現物給与総額
現物給与総額とは、毎月の給与や、年間に数回の賞与などを合計した金額のことを指し、具体的には所定内賃金、所定外賃金、賞与・一時金の3種類です。
所定内賃金とは、企業ごとに決めた所定内労働に対して支払われる賃金を指します。具体的には、基本給や家族手当、住宅手当、通勤手当などがあります。所定内賃金の金額について、明確な基準は決まっていないため、企業によって異なります。
所定外賃金とは、所定内労働以外の労働に対し支払われる賃金を指します。具体的には、残業や休日出勤など所定内賃金をもとに算出するため、所定内賃金によって金額が変わります。
しかし、労働には所定労働時間と法定労働時間の2種類があり、企業で決められた所定労働時間と、所定外労働時間の合計が労働基準法で定める法定労働時間の1日8時間、週40時間を超えた場合は法律で定める基準で算出されます。
参考:厚生労働省
賞与・一時金とは、社員のモチベーションアップや労働者に対し会社側からの感謝の意味を込めて支払われる賃金を指します。金額は企業によって異なり、一般的には基本給と業績に応じて支払う基本給連動型が多いです。また、賞与の金額に関する法律上の決まりはなく、企業ごとに就業規則で定めています。
現物給与以外
現物給与以外とは、給与や賞与以外の金額を指します。具体的には、退職金や法定福利費、福利厚生費、その他の4種類です。
退職金は、これまでの労働に対する慰労金のことを指します。退職に関しては、企業独自に積み立てた金額を退職時に全額支給する制度や、自社で退職金の用意が難しい中小企業のための外部機関で積み立てる制度など、いくつかの制度があります。
法定内福利厚生費は、法律で定める企業が負担する保険料を指します。具体的には、健康保険や厚生年金保険、介護保険などの社会保険料と、雇用保険などの労働保険料などがあります。
福利厚生費は、労働者やその家族の健康や生活の向上を目的とした企業独自の施策に対する費用を指します。具体的には、社員食堂や社宅制度、冠婚葬祭費用、レジャー施設の割引などがあります。
福利厚生を決める際は、全従業員を対象としていること、支出金額が常識の範囲内であること、現物支給でないことの3点に注意して決める必要があります。
その他は、退職金や福利厚生関連以外の人件費として扱われる費用を指します。具体的には、新入社員の採用や、教育研修に関する費用などがあります。
人件費は売上の何%が理想的か
理想的な人件費は、業種や企業の規模によって数値が大きく変わります。人件費が適正な割合か確認するための指標として、売上高人件費率と労働分配率を知る必要があります。それぞれの適正な人件費率や概要、割合の算出方法について詳しく解説します。
売上高人件費率
売上高人件費率とは、売上高営業利益率と対の関係であり総売上に対して人件費が占める割合のことを指します。
中小企業庁によると、卸売業で7.2%、小売業で14.4%、旅館業で37.5%と業種によって大きく違います。売上高人件費率の算出方法は人件費÷売上高×100で算出できます。
売上高人件費率が高いほど人件費が経営を圧迫していると言えます。売上高人件費率が高くなる原因としては売上高が少ないか人件費が高すぎる、もしくはその両方が考えられます。
逆に、売上高人件費率が低い場合は生産性がよいと捉えることもできますが、一方で社員への還元率が悪い可能性も考えられます。社員への還元率が悪いと、モチベーションの低下による生産性の減少につながるため注意が必要です。
売上高人件費率は人件費が適正な割合か分析するために必要な指標のひとつであり、人件費のコスト削減においても重要な数値になります。
参考:中小企業の経営指標(概要)~中小企業経営調査結果~
労働分配率
付加価値額に対して人件費が占める割合を指し、会社が生み出した付加価値が人件費にどのくらい使われているのかわかります。付加価値とは、元値に対して企業独自の価値を付け加えたものを指します。
労働分配率の平均値はおよそ50%で、業種や企業の規模によって異なります。労働分配率の算出方法は、人件費÷付加価値額×100で算出できます。
労働分配率が高い場合は、社員の満足度やモチベーションが高く、会社の成長によいといえます。一方で人件費が経営を圧迫している可能性があり、設備の故障などで生産ができない状況をまねく危険もあるため、資金の使い道を検討する場合もあります。
労働分配率が低い場合は、効率よく収益を生み出し、人件費にかかるコストが少ないため経営状況的には良好な状態といえます。一方で、社員の給与が低いことによるモチベーションの低下や、それによる社員の離職や生産量の減少などを引き起こす可能性があります。
労働分配率は、売上高人件費率と同じく人件費の適正な割合を導くのに必要な指標のひとつであり、資金の使い道を決めるのに重要な数値になります。
参考:2022年経済産業省企業活動基本調査(2021年度実績)の結果(速報)を取りまとめました
業種別の人件費率
人件費率は業種や企業の規模によって異なります。2021年各業種の売上高人件費率の中央値は卸売業で3.2%、小売業で4.2%、食料品関係で5.5%、建設業で8.2%、サービス業では14.2%で、全業種の平均値は7.8%となっています。
2021年各業種の労働分配率の中央値は卸売業で20.7%、小売業で12.3%、食料品関係で18.5%、建設業で53.0%、サービス業では35.4%で、全業種の平均値は28.4%となっています。
提供するサービスそのものが価値となるサービス業は人件費が高くなる傾向があります。一方で、卸売業や小売業は1人あたりの取り扱い金額が大きいことから、人件費が低い傾向があります。また、同じ業種でも企業の規模や取り扱う商品、企業の体制によって人件費の違いがあります。
参考:ザイマニ(財務指標百科)
安易な人件費削減によって招く悪循環
安易に人件費削減をすると、経費削減するどころか思わぬ損失を生む可能性があります。人件費削減によって起こりうる損失について、5つ紹介します。
優秀な人材の流出
安易な人件費削減によって、優秀な人材が辞めてしまう可能性があります。人件費を削減するために給与や賞与のカットをした場合、社員は自分の労働に対して高い評価をしてくれないと感じ、必然的に自分を評価してくれる会社を求めるからです。
人材の流失は人員不足をまねき、生産性にも影響します。また、新たな人員を確保するためにも採用費用が掛かります。社員は会社の貴重な財産であり、人件費削減のために給与や賞与のカットをすると、人件費よりも多大な損失を生む可能性があります。
人件費削減の対策のなかで給与や賞与のカットは効果が出やすいというメリットがある一方で、優秀な人材が辞めてしまうリスクがあります。
社員のモチベーション低下
安易な人件費削減をすることで、社員のモチベーションを下げてしまいます。なぜなら、社員の多くは賃金を得るために働いているからです。
労働に対し相応の給与や賞与が見込めない場合、自分の労働に対する評価が低く、頑張っても満足する賃金を得られないと感じ、モチベーションが下がります。
社員のモチベーションは労働生産性に関わるため、人件費を削減する場合は社員のモチベーション維持も念頭にいれて行う必要があります。
社員の負担増大による残業時間の増加
人件費削減のために、人員整理としてリストラし人員を減らした場合、逆に人件費が増える場合があります。なぜなら、残された社員の負担が増え、残業が多くなる可能性があるからです。
これまでと同じ業務を少ない人員で取り組まなければいけないため、業務が終わらない場合は残業で対応してもらうしかありません。人件費を抑えるために残業を禁止した場合、1日の業務がいつまでも終わらない状態が当たり前になり、社員は疲弊して、生産性も悪くなります。
人員を減らして人件費削減を狙っているのに、残業が増える状況が続くことで、社員も経営陣に対し不信感を募らせ、関係性の悪化やパフォーマンスの低下を引き起こす可能性があります。
人件費削減の為に人員の整理をする場合は、業務内容の見直しもあわせて行わなければ、残業時間の増加を招く可能性があります。
生産性低下による業績悪化
安易に人件費を削減することで生産性が下がり、業績悪化を悪化させる可能性があります。なぜなら、社員のモチベーションと生産性には深い関係があるからです。
社員は労働に対して適切な評価をされないと、仕事のやりがいや働く意味を見失い、働くことへのモチベーションが下がります。モチベーションが下がることで作業効率が悪くなり、本来終わるはずの業務が定時内で終わらない状況をまねきます。
社員のモチベーションは生産性に間接的な関わりがあり、生産性は業績に直接影響するため、人件費削減の対策をする際は、業績悪化のリスクがあることも念頭にいれておきましょう。
会社の評判やブランドイメージの低下
安易な人件費削減により、会社の評判やブランドイメージを低下させる可能性があります。なぜなら、会社側が社員を大切に扱っていないと判断されてしまうからです。
労働契約法第二章第九条で「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定められており、合理的な理由がある場合を除いて、安易な減給や解雇は認められておりません。
給与や賞与のカット、人員整理の為にリストラした場合は、金融機関などからの評価が下がることもあり、会社のイメージダウンにつながります。また、会社の評価が下がると新たな人員確保が難しくなるだけでなく、会社の評価が下がったことが取引先に知られると関係悪化を招き、業績の悪化につながります。
会社のイメージダウンは直接業績の悪化につながる可能性もあり、人件費削減を検討している企業や経理担当者は、会社の評判やイメージダウンにならないような施策を施す必要があります。
参考:労働契約法
適切な人件費の削減方法
正しく人件費を削減することで、取引先や従業員との関係を崩さずに経営状況を改善できます。具体的な人件費削減の方法について、5つ紹介します。
社員のパフォーマンスを向上させる
社員のパフォーマンスを向上させることで人件費を削減できます。なぜなら、職場の雰囲気がよくなり、生産性や業務の効率がよくなるからです。
社員のパフォーマンスを向上させる方法として、成果や成功を祝うことや目標を明確化すること、健康的な習慣を身につけてもらう為に健康診断の項目を見直すなどがあります。
社員のパフォーマンスが向上することで、上司からの評価があがり、モチベーションも高くなります。モチベーションが高くなることで生産性や作業効率もあがり、業績の上昇につながる好循環がうまれます。
社員のパフォーマンスを向上させることで業績の上昇も狙えるため、人件費削減をする際には有効な手段のひとつです。
業務を手順化して共有する
業務を手順化して共有することは、人件費削減の具体的な行動のひとつです。なぜなら、業務を手順化することで教、育に要する時間などの時間ロスを減らせるからです。
業務を手順化して共有することで得られるメリットは、品質の均一化が担保できるところです。業務手順や注意点を決めておくことで、社員の経験やスキルによる差をなくし、誰にでも業務を依頼できます。
品質の均一化以外に、新人教育に要する時間のロスや教育の手間を省けます。教育に要する時間や、疑問点について質問された際返答する時間などで、ベテラン社員の作業率は少なからず下がります。
業務内容に関する手順を明確化し、共有すれば、疑問に思ったことも手順化されたマニュアルを参照しながら作業に取り組めるため、ベテラン社員の時間のロスをなくせます。
マニュアルを作成するにあたって、作業内容を振り返ることもでき、業務内容の改善にも役立つため、業務内容を手順化して共有することは人件費を削減する際の有効な手段です。
業務の一部を外注する
業務の一部を外注することも有効な手段のひとつです。なぜなら固定費を節約することができ、社員はコア業務に集中して取り組めるからです。
固定費のなかには人件費や設備費が含まれており、外注することでそれらの費用を抑えられます。また、社外の専門的な知識やスキルを活用することで、より質の高い作業が期待できる場合もあります。
コア業務とは、直接利益に関わる、専門的な判断が必要な難易度の高い作業のことです。社員がコア業務に集中して取り組めるようになることで、生産性や売上の上昇が期待できます。
このように、人件費を削減するために必要に応じ、業務を外注するのも有効な手段のひとつです。
研修を効率的に行う
研修を効率的に行うことも有効です。なぜなら、新人の教育や従業員のスキルアップに必要不可欠な研修は、会場費や移動費など多くの経費が必要になるからです。
研修を効率的に行う方法のひとつは、リモート化です。リモート化することによって、研修参加者に対して平等なクオリティでの研修が行えるだけでなく、移動費の削減につながります。
研修の受講人数が多い場合は、講師派遣型研修も経費削減のひとつの方法です。講師派遣型は受講者の移動費を削減でき、1人あたりの研修費を抑えられます。
研修を効率的に行う方法でもっともおすすめなのが、e-ラーニングです。受講者に合わせた研修内容を組めるだけでなく、過去の受講履歴や成績も簡単に確認でき、インターネット環境とデバイスさえあればどこでも研修を受講することができます。
人材の育成にはかかせない研修費用も、こうした受講方法を工夫するだけで経費を削減できます。
研修に効果的なe-ラーニングシステムは、こちらのページで詳しく紹介しています。
ITシステムを活用する
ITシステムを活用することも経費削減には有効です。なぜなら、情報の共有や管理が簡単になり作業効率がよくなるからです。
書類をデータ化することで、リモートワークでも出社時と変わらないクオリティで仕事をすることができます。また、作業の一部をIT化することにより、作業時間を短縮でき、業務の効率化や生産性が向上します。
多様な働き方を実現し、社員の働きやすい環境を作るために、ITシステムの導入は検討する価値のある施策のひとつです。
まとめ
人件費は、企業の経費のなかで多くの割合を占めます。そのため、人件費を適切に削減することで経費を大幅に削減できます。
目安となる人件費の割合は業種により異なり、現物給与総額と現物給与以外の2種類に分けられます。また、人件費が適切か分析する際は、売上高人件費率と労働分配率が重要な指標となります。売上高人件費率の平均は7.8%、労働分配率の平均は28.4%です。
売上高人件費率の算出方法は人件費÷売上高×100で算出し、労働分配率は人件費÷付加価値額×100で算出でき、経営状況を分析する際に重要な役割を果たします。
それぞれの数値をもとに人件費を削減する際は、人材の流出や社員のモチベーション低下、生産性低下による業績の悪化、残業時間の増加、会社の評判が下がることやイメージダウンなどのリスクがあることを念頭にいれておきましょう。
人件費の具体的な改善方法は、社員のパフォーマンス向上、業務の手順化や外注、研修の効率化、ITシステムの導入などがあります。適切な方法で人件費を削減し、最大限の利益確保に努めましょう。