DX推進に向けて、経済産業省より「DXレポート」が公表されています。しかしDXレポートはページ数が多く、記載内容に興味を持っても、すべてを読むのには時間がかかってしまうでしょう。
本記事では、DXレポート2.1の概要について詳しく解説していきます。DXレポート2.1の概要について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
DXレポート2.1とは
DXレポート2.1で提起された課題は、ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係です。ユーザー企業は「コスト削減」、ベンダー企業は「低リスク」を重視しているため、お互いにデジタル時代に必要な力を身につけられないという問題が生じます。
DXレポート2.1では、DXレポート2で具体的に記載されていなかったデジタル産業・デジタル企業の姿、デジタル企業へ変革していくにはどのようにすればよいかについて示されています。
DXレポート2.1までの背景
ここでは、DXレポートとDXレポート2の概要や、レポートで提起された課題・対策について解説します。
DXレポート
2018年9月に公表されたDXレポートでは「2025年の崖」と、日本企業のDXへの取り組みを促す内容が説明されています。「2025年の崖」の問題は、下記のとおりです。
複雑化した古いITシステムのメンテナンスに、必要以上に費用がかかる
新しい技術を導入しようと考えない
DXレポートにより、市場での競争力を確保できればDXは不要との誤解が生じています。この問題は、ITシステムをコストと考えている点です。新しい技術のメリットを考えなければ、古いITシステムからの脱却は難しいのが現状でしょう。
企業が取るべき対策は、システムを刷新しても使用できるように、経営者・情報システム部門などと、認識を共有する必要があります。また、DXを実践できるIT人材の育成・確保が重要になるでしょう。
DXレポート2
DXレポート2は、2020年12月に経済産業省から発表されました。コロナ禍により明確になったDXの本質や、企業の取るべきアクションについて、中間報告としてまとめたものです。
コロナ禍で、リモートワークをする際に発送・決済業務や社内システムの問題などが取り上げられ、変化に対応できるかできないかでDXの進捗に差が出ています。ビジネス変革ができない企業は、デジタル競争を勝ち抜けないと指摘しています。
約95%の企業はDXに取り組んでいないレベルか、一時的にDXを導入する程度であり、全社的な危機感の共有や意識改革の推進というレベルまで進んでいません。DXレポート2では「多くの経営者層が、DX人材の育成に危機感を持っていない」という点を指摘しています。
ユーザー企業とベンダー企業の問題点
ユーザー企業とベンダー企業には、どのような関係性があり、どんな問題点を抱えているのか解説していきます。
ユーザー企業
IT技術をコストと考えてしまい、ベンダー企業にシステム開発などを委託して、コストを削減しています。一方で、ユーザー企業は以下のような問題点を抱えています。
ベンダー企業に頼ってしまい、自社内でIT技術に対応する力が育たない
IT技術に対応できず、システムがブラックボックス化してしまう
顧客が満足するような価値提供ができない
これからのユーザー企業には、ビジネス環境の変化に対応していく力が求められるでしょう。
ベンダー企業
ベンダー企業は、労働量に対する値付けにより、低リスクでビジネスを実現しています。一方で、以下のような問題点を抱えています。
売上を確保する必要があるため、RPAによる自動化で人の労働量を減らし、生産性を向上させる技術には積極的に投資ができない
生産性を高める技術開発への投資が困難であり、新たな能力を獲得できない
コスト削減・低リスクのために確立されたビジネスモデルが、DXを阻害する構造的な課題になっているのが現状です。ベンダー企業は受託開発のビジネスから離れ、ユーザー企業のDXを支援できるパートナーに転換していく必要があるでしょう。
デジタル産業とは何か
デジタル産業とは、デジタル技術を活用して顧客と取引先が相互につながったネットワーク上で、新たな価値を創出し続ける新しい産業です。今までにない価値や、顧客体験を提供するデジタル産業は、既存産業よりも高収益を期待できます。
また、新規アイデア実装支援や組織改革が中心であるため、既存産業より利益率が高くなっています。下記の事業者が、デジタル産業として位置付けられています。
クラウド事業者
プラットフォーム事業者
サイバーセキュリティ事業者
消費者・企業向けサービスの事業者
企業変革を阻む3つのジレンマ
デジタル産業の企業へ変革したいと考えるユーザー企業やベンダー企業は、下記のジレンマにより、一歩を踏み出せないのが現状です。
危機感のジレンマ
人材育成のジレンマ
ビジネスのジレンマ
最も注目すべきジレンマは、ビジネスのジレンマです。ひとつずつ見ていきましょう。
危機感のジレンマ
目先の業績が好調であれば、デジタル産業への変革に対する投資や、競争への危機感がありません。
投資する力が残っているときにDXを進めるのが大事ですが、危機感が高まったときにはすでに業績が悪くなり、変革するための企業体力を失っている状態です。これが危機感のジレンマです。
人材育成のジレンマ
DXを推進するには、IT人材の確保が必要です。この人材確保に苦戦している状況を表したのが、人材育成のジレンマです。デジタル技術の進化するスピードが早く、時間をかけて新たな技術を学んでも、習得したときには古い技術になっていることが考えられます。
すぐに新技術を獲得できる人材がいたとしても希少価値の高い人材なため、他社に引き抜かれてしまう可能性が高いでしょう。
ビジネスのジレンマ
ビジネスのジレンマは、ベンダー企業のみが抱える問題です。ユーザー企業が自分たちでシステムを内製化してデジタル企業に変わると、ベンダー企業は今まで受けていた仕事がなくなり、売上規模が縮小して企業価値が下がります。
ユーザー企業のDX支援により、ベンダー企業自体は不要という状態になってしまいます。構造的なジレンマがあるため、容易に進められていないのが現状です。
デジタル産業と目指すべきデジタル社会の姿
デジタル産業の姿とは一体どのようなものなのか、これからデジタル産業が目指すべき方向性について解説します。
デジタル産業の姿
デジタル産業は、今までにない価値・顧客体験を提供するために、以下のような特徴を持つことで、今までよりも高収益な企業になります。
課題解決や、新たな顧客体験をサービスとして提供する
多くのデータを活用して、個人や社会の課題を発見し、瞬時に価値提供する
インターネットにより、サービスを世界規模でスケールする
顧客や他社と相互につながったネットワーク上で価値を提供し、環境の変化に合わせて常にサービスを更新し続ける
デジタル技術を活用して、これまで実現できなかったビジネスモデルを実現する
デジタル産業は、DX推進により、デジタル社会に貢献する必要があるでしょう。
目指すべきデジタル社会の姿
デジタル社会の目指すべきゴールは、下記の4つです。
社会的な課題の解決を素早く行う
新たな価値創出・顧客体験が迅速に行われる
グローバルで活躍する競争力を持つ企業が生まれる
資本の大小や中央・地方を問わず、価値創出に参画できる
目指すべきデジタル社会の姿では、デジタル技術により、新たなサービスモデルが社会全体に浸透するのを理想としています。
デジタル産業の構造と企業類型
デジタル産業を構成する企業は、下記の4つに類型化できます。
企業の変革を共にするパートナー
DXに必要な技術を提供するパートナー
共通プラットフォームの提供主体
新ビジネス・サービスの提供主体
ひとつずつ見ていきましょう。
企業の変革を共にするパートナー
企業の変革を共にするパートナーの特徴は、下記のとおりです。
新しいビジネスモデルを顧客と形成
DXの実践により得られた知見・技術を共有
企業類型における企業例は、コンサルティング事業者です。経営トップから企業の変革を推進して、企業組織の意識改革などを総合的にサポートします。
DXに必要な技術を提供するパートナー
DXに必要な技術を提供するパートナーの特徴は、下記のとおりです。
IT技術を有する高いスキルのエンジニアを供給
DXの専門家として多くの技術を組み合わせて提案
次に、企業類型における企業例を紹介します。下記の企業例は、SI事業者です。
内製化を進める企業へアジャイル開発技術の支援
DX人材育成・組織変革をメニュー提供
共通プラットフォームの提供主体
共通プラットフォームの提供主体の特徴は、下記のとおりです。
中小企業を含めた業界ごとの共通プラットフォームのサービス化
人材を核としたエコシステムの形成
企業類型における企業例はプラットフォーム事業者で、業界・課題ごとに共通のプラットフォームを構築し、他社にサービス提供を行います。
新ビジネス・サービスの提供主体
新ビジネス・サービスの提供主体の特徴は、ITを強みとし、新ビジネスの提供を通して社会への新たな価値提供を行うことです。
企業類型における企業例は、大手小売事業者です。
サービスのIT開発はすべて内製であり、EC事業・コンテンツ事業などをテクノロジー起点で常に事業変革
DXのために開発したデジタルソリューションなどを他社へ提供
企業変革に向けた施策
経済産業省は、企業のDX促進への施策を進めています。DXレポート2.1でまとめられた「企業変革に向けた施策」では、下記の内容を解説します。
デジタル産業指標の策定
DX成功パターンの策定
その他の取り組み
ひとつずつ見ていきましょう。
デジタル産業指標の策定
一番に重要になるのが、デジタル産業指標の策定です。デジタル産業指標では、デジタル産業ならではの特徴を既存企業との比較で示しています。
デジタル産業の企業への変革のために「デジタル産業指標(仮)」の策定が検討されています。DXの推進度では、デジタル産業指標(仮)は「DX推進指標」の2階部分として位置付けられています。
デジタル産業を構成する企業の4類型ごとの指標を策定して、自社がどの程度デジタル産業の企業に移行しているか、判断できるようにするのが狙いとなっています。
DX成功パターンの策定
日本企業ではDXがうまく進んでいない現状が、DXレポート2で明らかになっています。実際に、DX導入に向けて何をしていけばよいのかわからない経営者も多いでしょう。
また、DXが進まない理由としては、DX推進への成功というゴールが見えていないからです。多くのDX事例が公表されても、デジタル産業までの変革の道筋において、現在はどの段階なのか解説されていません。
対策として、DXの具体的な取り組み領域や成功事例をパターン化して、企業において具体的な行動を起こす際の手がかりになるDX成功パターンを策定する必要があります。
DXを成功させるための具体的な進め方について、こちらの記事もあわせてご覧ください。
その他の取り組み
企業変革に向けたその他の取り組みとして、PwCコンサルティング合同会社の事例があります。
PwCコンサルティング合同会社では、クライアントが抱える課題の時間軸を短期、中期、中長期の3つに分け、課題に対してビジネス、エクスペリエンス、テクノロジーの3つの視点からアプローチし、課題解決に取り組んでいます。
現在はDXレポート2.2も公表されている
今までのDXレポートの内容を考慮して、DXを推進するためにデジタル産業全体での変革に向けた方向性や活動をDXレポート2.2で提示しています。方向性や活動は、下記のとおりです。
デジタルを効率化ではなく、収益を高めるために活用すべきである
DX推進にあたって、経営者は従業員が新しい働き方に対応できるように行動指針を示す
経営者が積極的に価値観を外部へ発信して、同じ価値観をもつ人材を集め、互いに変革を推進する新たな関係を構築する
上記のような活動を実現するための施策が、デジタル産業宣言です。デジタル産業宣言の狙いは、下記の2つです。
デジタルで収益向上を達成できるような行動指針を全社へ浸透させる
経営者の価値観を外部に発信する
まとめ
本記事では、DXレポート2.1の概要について解説しました。2020年に公表されたDXレポート2の段階では、日本はDXがなかなか進んでいないのが現状でした。その後、DXレポート2.1では、デジタル変革後の産業の姿や企業が目指すべき内容が示されています。
デジタル社会を目指すには、今までの産業構造を変えていく必要があります。ユーザー企業とベンダー企業がお互いに協力して、価値を高めて競争していくことが重要です。
また、今までの産業構造からデジタル産業を目指すならば、他社や顧客とのつながりを持つのが大事になります。DX導入をお考えの企業様は、DXレポートの内容を元にして、DXに取り組んでいきましょう。