製造業におけるDXの現状と課題!DXで達成できること
DXとはDigital Transformationの略であり、製造業DXとは、デジタルの技術を業務に取り入れることで、工場における生産性や製品の質に変革をもたらすことです。
近年、さまざまな企業でAIやロボットが導入されるなど、業務のデジタル化が進んでいます。
しかし、ものづくりを担う製造業においては、なかなかデジタル化が進んでいないのが現状でしょう。
そこで今、製造業ではどのようなことが課題になっているのか、DXを進めるとどのようなことが達成できるのか、詳しく解説していきましょう。
製造業の現状
製造業では現在、人手不足や設備が古くなってきているなど、多くの課題を抱えています。
加えて、新型コロナウイルスの影響も大きく受けています。
材料を調達し、製造・物流・販売というサプライチェーンで成り立つ業界であるため、どこかひとつでも流れが途絶えてしまうと、大打撃を受けてしまうのです。
製造業を取り巻く現状とは、一体どのようなものなのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
人手不足
少子高齢化によって、多くの企業で人手不足が深刻化しており、製造に関わる企業ももちろんそのひとつです。
とくに、この業界においては、若い世代や女性の就労者が減っているといわれています。
人手が確保できないと、業務を続けることができないため、やがて倒産する企業も出てくるでしょう。
そうなると、その企業に商品を依頼していた企業にまで影響が及ぶ可能性が高くなります。
この課題を解決するためには、DXを進め、業務を効率よく行えるよう、根本的に仕組みを変える必要があります。
困難な技能伝承
人手不足に伴って、技能伝承ができなくなるという問題も浮上してきます。
製造業では、職人のように熟練した技能を有するスタッフが要となって、業務が成り立っているケースも少なくありません。
そのため、そもそも働く人手がないと、技能を伝承していくことができません。
とくに、若い世代の人手が確保できない場合には、致命的でしょう。
2021年版ものづくり白書(経済産業省)によれば、製造に関わる34歳以下の若い就業者は、年々減っているといいます。
さらに、日本は高齢化も進んでいるため、このまま若い人材が確保できなければ、やがて事業縮小や倒産の可能性も高まるでしょう。
また、これまで培われてきた貴重な技能が失われるため、国にとっても大きな損失になります。
既存設備の老朽化
昔からの設備を使っている企業が多く、老朽化が目立ってきていることも課題のひとつです。
経済産業省製造産業局の取りまとめによれば、製造業における金属の製造に関わる機械は、導入されてから15~20年以上が経過しているものが半数を超えているという報告もあります。
設備が古いと、メンテナンスに時間や費用がかかるデメリットがあります。
さらに、人手を必要とすることも多くなるため、生産性が悪くなります。
小さい問題のように見えますが、実は営業を拡大していくにあたって、ブレーキをかける要因になってしまうのです。
製造業でDXを推進する場合の課題
製造業ではDXの推進が求められていますが、その場合には、どのような課題に直面するのでしょうか。
具体的にみていきましょう。
目指すべきゴールが不明瞭になりやすい
製造業DXを進めるにあたって、ゴールが不明瞭になりやすいという課題があります。
企業や消費者からの要望は、常に変化し続けています。
そのため、自分の企業が目指すゴールが分かりにくくなり、DX推進の方向性がぶれることがあります。
この課題を解決するためには、DXを進めることで実現したい状態をイメージすることが大切です。
DXによって、現状では困難でも将来的に可能になる可能性があるため、具体的にどのような状態を目指すのか、イメージを社内で共有するとよいでしょう。
社内でイメージを共有しておくと、働く人すべてが一丸となってDX推進に取り組むことができます。
適した人材が確保できない
製造業では、デジタル化を進める人材が足りていないという課題もあります。
デジタルに詳しい人材がいないと、DXを進めたところで、最大限の成果を得ることは難しいでしょう。
また、外部から人材を確保するよりも、できるだけ自社で人材を確保するのがおすすめです。
実際の現場では、ハードウェアを扱うエンジニアがソフトウェアの知識を習得したほうが、デジタル化を進めやすいことがあるからです。
また、デジタルに詳しい人材は、すでにIT関係の企業に在籍していることが多いため、人材を確保しにくい状況でもあります。
そのため、DXを進めるために必要な技術・知識を社内で習得できるように、教育や研修の制度を整えることが大切です。
現在は研修シーンでも技術化が進み、3DやAI、VRを用いたeラーニングという研修システムが用意されています。
eラーニングについて、こちらのページでも詳しく紹介しています。
IT投資が進んでいない
ITへの投資が進んでいないということも、課題のひとつでしょう。
ITへの投資について、企業としての在り方は大きく2つに分類されます。
ひとつは、今ある経営資源を効率よく利用して、利益を最大限に得ることを重視する企業です。
この場合の投資は、既存システムに対しての守りが目的になることが少なくありません。
もうひとつは、環境に応じて変革していくことを重視する企業です。
投資目的は、人材の育成やビジネスの変革が多いといわれています。
日本では、前者に当てはまる企業が多いのですが、市場で求められることは常に変化し続けており、確実性のない世のなかでは、後者のように変革を起こす取り組みが大切です。
このように、経営の方向性の違いによって、ITへの投資が最適に行えないケースがあります。
どのツールを導入すべきか判断できない
DXを進めるにあたって、どのようなツールを導入するのかを判断する必要があります。
ツールには、業務を自動化するものやビッグデータを分析・解析するもの、生産管理や在庫管理を管理するものなどがあり、実際に多くの企業で導入されています。
自社の経営戦略に合っていて、なおかつ従業員が使いやすいツールを選ぶ必要がありますが、その判断が難しいと考える企業も少なくありません。
製造業がDXで達成できること
ここまで、現状や課題について解説してきました。
課題は未だ多く、スムーズにDXを進めることが困難な場面もあるでしょう。
しかし、デジタル化を進めることで得られるメリットは大きく、できるだけ早くDXを進めるほうがよいでしょう。
ここからは、DXでどのようなことが達成できるのか解説していきます。
業務の可視化
デジタル化が達成できると、製品の受注から販売、アフターサービスにわたる、すべての工程を可視化することができます。
そのため、何か問題が生じた場合でもすぐに問題を解決できます。
また、生じた問題をすぐにフィードバックすることで、その後の業務を円滑に進めることが可能です。
さらに、情報が可視化されると、業務を効率的に行えるでしょう。
そうすると、新技術の開発や顧客獲得に集中でき、結果として製品の品質上昇に役立ちます。
ゆくゆくは、企業の躍進にもつながるでしょう。
コストの削減
デジタル技術を駆使すれば、これまで人が行っていた業務もAIなどロボットが担当できるようになります。
その分、業務に携わる人員を減らすことができるため、人件費を削減できます。
また、効率よく業務を進められるので、残業時間や残業代も削減できます。
残業時間の少なさは、従業員の満足度上昇にもつながるでしょう。
とくに製造業では、人件費が高くなるケースが少なくありません。
DXを進めて、コスト削減を図ることをおすすめします。
生産性の向上
デジタル技術によって、現場での業務を自動化できるため、生産性を上げることができます。
また、人が行うよりもAIなどロボットのほうがミスも少ないため、品質の上昇にもつながります。
この業界では、紙を用いての記録管理が未だに多いといわれています。
DXを進めることで、ペーパーレス化も同時に進められるでしょう。
また、記録のデジタル管理は情報の可視化にもつながります。
変化する顧客ニーズへの柔軟な対応
業務を効率よく行うだけでは、企業の拡大化を進めることは難しいといえます。
収益を上げるためには、変化し続ける顧客のニーズに応じて、柔軟に対応できる体制の整備が大切です。
いくつかの工場を持つ企業では、DXを進めることで、どの工場でも共通の技術や管理体制を提供できるようになります。
それにより、これまでよりもさらに顧客のニーズに対応した生産を行えるでしょう。
また、新しい製品やサービスの開発が大切です。
DX推進によって生産性が上がることで、そうした変革に注力が可能になるでしょう。
製造業におけるDXの具体的な成功事例
それでは、製造業において、DXを進めて成功した事例を具体的にみていきましょう。
6つの企業をご紹介していきます。
トヨタ自動車株式会社:工場IoT
デジタル技術によって「工場IoT」に取り組み、既存のデータを一元管理して、現場と工場など部署をまたぐ情報の共有ができるようになりました。
この取り組みは、2~3年ほどの期間をかけて、段階的に投資を行ったといいます。
それと同時に、従業員のために組織全体で教育支援を行い、BIやAIなどのツールも提供しています。
またデータの収集・蓄積については、無駄なデジタル化はしていないことがポイントです。
これらの取り組みの結果、費用対効果を上げることに成功しています。
さらに、IoTの成果を受けて、品質や付加価値の向上に関するデジタル化にも着手し始めています。
ヤマハ発動機株式会社:デジタル改革実行
自社の売上を上げることをゴールに設定し、デジタル化に注力している企業です。
海外での生産・売上率が高いため、まずはグローバルな視点を持って経営陣の意識を改革し、戦略的なアプローチを行いました。
また、4つのテーマにおいてPoCによる検証を行い、ビジネスの効率化・創出に取り組みました。
その結果、エンジニアリングチェーンにおいて人員を削減し、効率化することができました。
さらに、PoC実施によって不良率が低減したと報告されています。
今後はさらに、デジタル化によるマーケティングや、社内の人事制度の改革に取り組み、売上拡大を目指すとされています。
オークマ株式会社:IT Plaza
IT Plazaとは、主力製品のNC工作機械における生産システムのことです。
DXを進めて「設計から製造まで一元的に行うコンカレント・エンジニアリング」や「変化し続ける生産計画に対応するための生産効率の極大化」「毎日の活動で生まれる技術や技能を蓄積、そして共有・活用ためのナレッジマネジメント」の3つの基柱が統合されたシステムを構築しました。
それにより、NC工作機械を発展させることができたと報告されています。
また、従来から現場で行われてきた知的生産などを分析した結果、日本の製造業に合うものを築き上げることができました。
富士通株式会社:FTCP
富士通株式会社では、技能伝承や人手不足、製品が多様化していることなど、さまざまな課題を抱えていました。
そこで、開発プロセスに変革をもたらすためのプラットフォームや、オープンソースを活用するなどして、製品開発に関してのノウハウ共有や、リアルタイムの応対ができる仕組みを作ることに成功しました。
そうした仕組みづくりによって、製品の品質を向上させることができ、さらに、納期を短縮可能になりました。
また、デジタル化を進めたことで不具合を抽出しやすくなり、製造しやすい設計ができるようになったと報告されています。
設計から製造までをデジタル化することで、業務の負担が減ったともいわれています。
株式会社リコー:RPA活用
リコーは、RPAを活用して、DX推進化に成功しています。
RPAとは、人がコンピュータ上で行っている作業を、ロボットによって自動化することです。
仮想知的労働者とも呼ばれており、現場における業務の流れを自動化させることが容易になります。
それにより、業務プロセスを改革させることができたと報告されています。
また、新たにRPAを導入する予定の海外事業所を対象として、教育プログラムも実施した結果、最短で約1週間での導入を可能にしました。
多くの業務にRPAを活用することで、業務量を大幅に削減できたといわれています。
株式会社今野製作所:プロセス参照モデル
今野製作所では、事業規模に比べると多様な生産形態があり、業務プロセスが複雑になっていました。
ほかにも、個別の受注に対応しきれていないことや、納期遅れなどの課題を抱えていました。
そこで、業務プロセスを分析するツールを導入し、業務がすべて可視化できるように取り組みました。
さらに、業務プロセスを最適なものにするため、システムツールを小さい規模で開発して、業務改善に役立てました。
それらの結果、まだ取り掛かれていなかったビジネスに着手できるようになったといいます。
さらに、付加価値が高い製品・生産を目指した設計に注力できるようになったと報告されています。
まとめ
製造業は、人手不足や設備の老朽化など、さまざまな課題を抱えています。
さらにDXを進めるにあたって、適した人材がいない・IT投資が適切に行われていない・どのようなツールを導入すればよいか判断ができないなど、課題は山積みです。
しかし、常に顧客のニーズは変化し続けており、柔軟に対応するためには、DXの導入が早急に求められます。
また、業務の効率化やコスト削減にもつながるため、導入するメリットは大きいといえるでしょう。
とはいえ、むやみにDXを進めると現場で混乱をきたすでしょう。
まずは、経営陣をはじめ、すべての従業員が納得したうえで、同じ目的を共有しながら、DXを進められる環境整備が重要です。