テクニカルイラストとは、取扱説明書やパーツカタログに描かれているイラストのことです。普通のお絵かきであればフリーハンドで描きますが、テクニカルイラストは寸法に従って製図的に立体図を描くことをいいます。主に工業製品を描くことから、テクニカルの名がついています。
ではなぜ取扱説明書やパーツカタログにおいて、写真ではなくイラストを掲載する必要があるのでしょうか。
イラスト化することのメリット・デメリットを、具体例を用いて紹介いたします。
目次
イラストのメリット
イラストであれば、複雑な構造物を簡単な形に置き換えることができる。
写真であれば細かい箇所も克明に映し出すことができますが、例えば複雑な構造をしている製品だと、凹凸が多すぎて説明したい箇所がどこなのかがわかりにくくなってしまいます。取扱説明書においては写真の厳密さがかえってマイナスに働くことがあるのです。
例として、洗濯機の止水栓にホースの取り付けをしている画像を用意しました。
(取説は多くの場合モノクロなので、画像もモノクロにしています。)
この写真のまま取説に使用しようとすると手が邪魔だったり、上に差し込むのか回すのか、接続する方法がわかりづらかったりと説明には好ましくないですね。
イラスト化することによって、説明に必要な情報をだけを伝えることができます。
イラスト化したものがこちらです。
写真では斜めから差し込んでいますが、イラストでは垂直に差し込むように描き替え、さらに矢印を付けました。また、止水栓側とホース側との違いを出すために外形線を太くし、ホース側に色をつけました。
イラスト化するメリットは、説明に必要のない部分を透明化したり、シンプルに必要な動作を説明したりできることです。
上記のような処理を行うことで、どのように接続すればいいのかがひと目でわかるようになりました。
イラストを流用して一部変更や共通部品に活用できる
シリーズで複数の製品が展開される場合、すべての製品に対してイラストを新規作成するとなると、かなりの時間もコストもかかってしまいます。イラストは一つひとつの製品についてすべて新規作成というわけではなく、シリーズ内の一つだけを作成し、そのままあるいは差分だけを修正して流用展開することが可能です。また、マイナーチェンジ品などで、旧製品から外観の変更がない場合は、過去に作成したイラストをそのまま使用することもできます。
テクニカルイラストは、基本的にアイソメ図という角度で描かれることが多く、一つ角度を決めたら極力他のイラストも同じ角度で作成します。同じ角度であれば、変更があった際にも一つのイラストを描き直すだけで他のイラストにも流用でき効率が良いからです。また、決まった角度のイラストで説明することで統一感が出てユーザーの視点もブレにくくなり理解もしやすくなります。
イラストのデメリット
コストがかかる・イラスト制作のノウハウが必要
製品によっては説明箇所が多くイラスト化する費用が高い・自社で制作するにもイラスト制作のノウハウが必要、といったお悩みが見受けられます。
このデメリットを補うためによく使われる手段としては、写真もしくは3DCGやCADのキャプチャー画面をトリミングしたり2D出力してそのまま取扱説明書に使ったりする方法が挙げられます。そうすることでコストを抑えることができますし、イラストのノウハウが無くても問題ありません。
しかしここでよくあるお困りごととしては、「3DCG独特の色味や表面のツルツルした質感が他のページとマッチしておらず違和感がある」「2D化した際にCADの線が何重にも重なり、つぶれている」「線がガタガタで形がおかしい」などが挙げられます。
そのような困りごとがあってもイラスト化はコスト的に難しい・・・そんな場合は、色味を調節したり、線を間引いたり綺麗にしたりすることで対応可能かもしれません。
マニュアルやイラストの目的、求めるクオリティとコストを照らし合わせながらマニュアル制作を進めていきましょう。
イラストはなんのためにある?
さて、ここまでテクニカルイラストのメリット・デメリットについて紹介してきましたが、では実際のところ、テクニカルイラストに限らず、イラストはなんのためにあるのでしょうか。そこを突き詰めていくと「情報を視覚で伝える」というところにあると言えます。
漫画や絵本はイラストをメインに、文字は極力少なく表現されていますが、とてもわかりやすいですよね。視覚情報は文字情報よりも頭にスッと入ってきやすいのです。
その仕組みを利用して、情報を伝えるための手段として様々な場面でイラストが多用されています。
そして視覚情報だけで伝えることができれば、わかりやすくなるだけでなく、文字を減らすことによってページ数削減や、多言語展開への対応もしやすくなります。
世界でもトップクラスの家具量販店IKEAの家具の組立て説明書はより顕著にそれが実現されている例で、極限まで文字が排除されてほとんどイラストのみで構成されています。そうすることにより、複数言語の取説を統一することができ大幅なコストカットを実現させています。
昨今のイラストの傾向について
上記のような理由から、世の中では様々なところにイラストが描かれています。WEB、チラシ、看板、パッケージ、取説などなど・・・何かを伝える場面にイラストは欠かせません。 ところで、最近の世の中のデザイン傾向として「シンプル化」が進んでいることにお気付きでしょうか。
複雑な形よりも丸や四角に近い形へ、派手なカラーよりもモノトーンやグレートーンへ、スペースいっぱいに使うのではなく余白で魅せるデザインへと変化しつつあります。その傾向に乗り遅れまいとして様々な企業が商品・パッケージ・取説・カタログ・HP等のデザインの一新を推し進めています。それに付随するイラストも例外ではなく、線は細く・少なく、色はグレートーンに、陰影はつけないといったタッチが多くなってきました。
テクニカルイラストもその傾向が進んでおり、グラデーションをつけて表現していたものが塗り無しで線の強弱のみでの表現になり、使用シーンの人物のタッチがシンプルになるといった変化が出てきています。
シンプルになる=誤魔化しが効かなくなる
シンプルにするには、一つひとつの線がより洗練されたものでなければなりません。
陰影がついているイラストとそうでないイラストでは、陰影がついている方が多少線の歪みがあっても紛れるものです。それを取り払うと、線に少しでもがたつきや歪みがあれば他の要素が少ない分、目立ってしまい誤魔化しが効かなくなるのです。シンプルなものは簡単に見えて、計算し尽くされています。
テクニカルイラストでも、今後より正確なイラストの質が求められていくでしょう。
おわりに
今回はテクニカルイラストについてメリット・デメリットや必要性、最近の傾向についてご紹介しました。
マニュサポでは、マニュアル制作のサポートを行っています。マニュサポの根幹を形成する3社の内の1社である真生印刷では、テクニカルイラスト制作の長年のノウハウと実績を持っております。マニュアル制作のことは是非マニュサポにお問合せください。