DXを進めながらも、まだまだ改善の余地が必要と考える経営者は少なくありません。最近注目の脱炭素と、DXの間に、因果関係があることをご存じでしょうか。
環境省が発表している2020年度温室効果ガス排出量を見ると、製造業を含む産業部門は全体の34%を占めています。脱炭素の実現を目指すうえでは、企業を中心とした脱炭素経営が欠かせないものとなってきています。
脱炭素経営には、自社の排出する温室効果ガスを把握することが重要です。この記事では、脱炭素とDXの関係性や、企業が取り組むべき脱炭素経営について解説します。
目次
脱炭素とは
脱炭素とは、二酸化炭素排出量ゼロを実現する社会づくりのことです。このあとに説明する、カーボンニュートラルと同じ意味合いで使われる場合も多いのですが、脱炭素は二酸化炭素そのものをゼロにすることに重点を置いた取り組みです。
脱炭素に取り組む背景としては、地球温暖化による環境問題の悪化にあります。石油や石炭などの化石燃料や森林減少の影響により、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが急速に増加しました。
それにより、気温や海面上昇による地球温暖化が助長され、豪雨や猛暑などの異常気象につながっているとされています。
温室効果ガスは、世界中の経済圏や生活のなかで排出されているため、企業活動やライフスタイルの見直しを図らなければ変化は望めません。安心して暮らしていくためにも、脱炭素化に向けてさまざまな取り組みをしていく必要があります。
脱炭素とあわせて押さえておくべき用語
脱炭素は、2050年までに二酸化炭素を実質ゼロにすることを実現目標としています。目標の実現のために、世界中でさまざまな取り組みに励んでいます。ここでは、そのなかで押さえておくべき用語を解説していきましょう。
脱炭素ドミノ
脱炭素ドミノは、カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素社会への取り組みをドミノのように全国各地につなげていくことです。
日本政府は2021年6月に『地域脱炭素ロードマップ〜地方からはじまる、次の時代への移行戦略〜』を決定し、具体策を発表しました。
2030年までに脱炭素先行地域を、少なくとも100か所以上創り出し、省エネなど8つの対策を実施することを決定しています。また、2050年を待たずに、脱炭素で粘り強く活気のある社会を全国で実現するとしています。
カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、脱炭素の二酸化炭素だけでなく、二酸化炭素を含んださまざまな温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組みです。
ゼロではなく「実質ゼロ」とは、森林は二酸化炭素を吸収して酸素を作り出す働きがあります。この効果を利用して、地球温暖化の進行を抑えようとしているのです。
日常生活や経済活動において、すぐに温室効果ガスをなくすことは簡単ではありません。そのため、どうしても削除しきれない排出量は、森林の吸収量と同等レベルに合わせることで、全体として実質ゼロにする取り組みとしています。
パリ協定
パリ協定とは、京都議定書の後継にあたり、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みです。
世界の平均気温上昇を産業革命以前にくらべて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを目標とし、2015年のパリで開かれたCOP21で合意となりました。120か国以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目指して取り組んでいます。
ESG
ESGとは「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治)」の頭文字の略で、投資活動や経営・事業活動のことを指します。
「環境」は、LED照明への切替や高効率の空調設備導入、エネルギー使用量の削減をするなど、環境にやさしい企業活動に取り組むことを示しています。
「社会」は、従業員のライフ・ワーク・バランス確保や、消費者が安全に製品やサービスを利用するための基準を見直すことへの取り組みです。
「ガバナンス」は、内部監査をすることで、これまで見過ごしてきた課題に気づけるよう、コンプライアンスを遵守する取り組みになります。
こうした取り組みから、取引先や消費者に信頼され、販路の拡大や新規顧客の獲得だけでなく、学生からの評価も高まることで人材確保が期待できるでしょう。
また、ESG取り組みを求める金融機関からの資金調達ができるなど、メリットとなる効果を期待できる可能性があります。今や、ESGは経営の中心に置くべき課題となってきています。
GX
GXとは「グリーントランスフォーメーション」の略で、石油や石炭などの化石燃料を使わずにクリーンなエネルギーの活用を実現する取り組みです。
現在の便利な世のなかは、石油や石炭などの化石燃料が中心となっていますが、その化石燃料が地球温暖化の最大の原因ともなっています。
化石燃料に代わる、太陽光や水素などの自然エネルギーの活用を進めることで、経済社会システム全体を変えていこうという取り組みになります。
脱炭素に対する日本政府の取り組み
脱炭素化に向けて、日本政府ではさまざまな取り組みが行われています。この章では、取り組み事例を5つ紹介します。
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略は、2021年6月に2050年カーボンニュートラル実現のために発表された政策です。これは、脱炭素化へ向けたビジネスチャンスととらえ、大胆な投資やイノベーションを起こそうとする企業の挑戦を支援するものです。
事業再構築補助金やものづくり補助金などにグリーン成長枠の特別枠が新設され、最大2,000万円もの支援があり、通常枠よりも優遇される取り組みになっています。
カーボンリサイクル
カーボンリサイクルは、排出される二酸化炭素を新たな資源として再利用し、安定的な供給源を確保する技術です。
排ガスなどから二酸化炭素を回収し、コンクリートのセメントの材料にしたり、水素を加えて新たな化学品や液体燃料の生成に再利用したりすることで、二酸化炭素の排出を抑制する取り組みになります。
カーボンプライシング
カーボンプライシングとは、排出される二酸化炭素に値段をつけて課税することで、二酸化炭素の需要を下げ、排出を抑制する目的です。二酸化炭素を排出する量が多い企業ほど負担増になります。
排出に応じて課税される炭素税のほか、企業ごとに排出量の上限をきめて、超過する企業と下回る企業との間で排出量を売買する国内排出量取引が、代表的な取り組みとして注目されています。
RE100
RE100とは「Renewable Energy 100%」の頭文字を取ったもので、企業が事業で使用する電力を100%再生エネルギーでまかなうことを宣言した、国際的な企業集団です。2014年の秋に、パリ協定に向けて、イギリスの非営利組織クライメートグループが立ち上げました。
この集団は、2050年までに事業活動で使用するエネルギーを太陽光や風力などの再生可能エネルギーで100%まかなうことを目標に掲げています。
2023年1月現在、世界全体で23か国397社の企業が参加し、日本は1位の米国に次ぐ77社が参加しています。
COOL CHOICE
COOL CHOICEとは、二酸化炭素による温室効果ガスの排出量削減のために、製品・サービス・行動など、脱炭素社会に貢献する賢い選択をしていこうとする国民運動です。
エコカーへの買い替えやエコ住宅の建設、高効率な照明への切替、公共交通機関を利用するなど、省エネにつながる選択を推奨する呼びかけ運動になります。
脱炭素とDXにはどのような関係があるのか
環境省は令和4年4月21日の「炭素中立型の経済社会変革に向けて(中間整理)〜脱炭素で我が国の競争力強化を〜」資料において、カーボンニュートラルとの関係では、DXとGXを「車の車輪」として実装するべきと明記しています。
二酸化炭素の排出量の割合で、最も高いのが産業部門です。産業部門は工作機やロボットなど、電力で動く装置や設備が多く使われています。
電力が多く使われる場所では、無駄な電力消費を徹底的に削ぎ落とし、省電力化するシステムが必要です。そこで、太陽光などの発電装置や蓄電装置を設置し、loT技術によって使用状況などを分析・可視化することで、効率よく電力が使えるようになるでしょう。
また、100%再生エネルギーでまかなうには、前途にもある、RE100に対応する基盤づくりも求められます。生産性や品質の向上だけでなく、消費エネルギーを効率化するためにも、デジタル技術を活用したDXの取り組みが重要になってきています。
脱炭素に取り組まないことによる企業の影響
脱炭素化が注目されるなか、取り組まないことで企業にはどのような影響があるのでしょうか。企業への影響を3つ紹介します。
融資を受けられなくなる可能性がある
ESGによる投資活動や、経営・事業活動が活発になってきています。脱炭素経営に取り組まないことで、ESG取り組みを求める金融機関からの資金調達ができなくなったり、機関投資家からの評価を下げてしまったりする可能性があります。
取引先との契約が切れる可能性がある
世界的に事業を展開している企業は、脱炭素化に向けて積極的に動いている傾向があります。サプライヤーに対しても排出量の削減を求める傾向があるため、脱炭素経営に取り組まないことで、取引の機会を失う可能性があります。
アメリカのアップル社は、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束しています。また、同国マクドナルドでも、2050年までに自社の二酸化炭素排出量をゼロにすると宣言がありました。
日本企業では、トヨタ自動車や積水ハウスがサプライヤー選定時に、環境問題への取り組みを考慮するとしています。
無駄なコストが発生する可能性がある
脱炭素化に向けて、カーボンプライシングという二酸化炭素を排出する燃料や電気の利用に対し、使用量に比例した課税を設定するとしています。
日本国内でも、地球温暖化対策のための税が施行され、最終税率への引き上げも完了している状況です。今後もさらなる引き上げや新たな税の導入も検討されていることから、無駄な税金や手数料を払う可能性があります。
脱炭素に企業が取り組むメリット
脱炭素化に向けた取り組みのメリットは、環境問題の改善だけではありません。この章では、企業が脱炭素経営によって得られるメリットを紹介します。
デジタル総合印刷株式会社の環境への取り組みについて、ご紹介します。
エネルギー消費に関わるコストの削減につながる
1つ目のメリットは、エネルギー消費に関わる光熱費・燃料費の低減です。脱炭素化に向けた取り組みとしては、現在のエネルギー消費の見直しをすることで、効率的かつ最適なエネルギー消費のサイクルが構築できます。
省エネ対策をすることで、温室効果ガスの排出量削減に貢献するだけでなく、光熱費や燃料費の削減にもつながります。
脱炭素化を進めていくうえでは、DXによるデジタル技術や省エネ設備の導入に初期投資が必要です。取り組む事業によって補助金制度があるため、うまく活用することで、総合的に拡販や知名度向上につながっていくでしょう。
優位性を確立できる
2つ目のメリットは、自社の競争力を強化し、売上・受注を拡大できる優位性の確立です。世界的に事業を展開する企業は、自社の排出量削減はもちろん、サプライヤーに対しても同様に求めています。
その要望に応えるべく、より脱炭素計画を進めた企業が選ばれ、サプライチェーンに残りやすい状況が生まれてくるのです。
そうしたことから、脱炭素経営は競争力強化だけでなく、自社の優位性を高めていくことにつながっていくといえます。
採用の強化やモチベーションの向上につながる
3つ目のメリットは、人材採用の強化や社員のモチベーション向上につながることです。脱炭素化事業へ取り組む姿勢を示すことで、社内での共感や信頼の獲得につながります。
また、取り組みに対する関心の高い人材から、共感や評価が得られることで、人材を集める効果も期待できます。
このように、脱炭素経営は金銭的なメリットだけでなく、社員のモチベーションや採用の強化を通して、企業活動の持続性の向上をもたらすでしょう。
ブランディングを強化できる
4つ目のメリットは、知名度や認知度の向上によるブランディングの強化です。省エネ事業に取り組み、大幅な温室効果ガス排出量削減を達成した企業や、再生エネルギー導入をいちはやく進めた企業は、メディアへの掲載や国や自治体からの表彰対象となります。
とくに中小規模事業者は取り組み自体の例が少ないため、自社の知名度や認知度の向上に成功するだけでなく、アピールにもなります。
企業はどのようにして脱炭素経営に取り組めばよいのか
脱炭素経営に取り組むと言っても、どのように取り組めばよいのかわからない場合も多いでしょう。運用改善のみでよいのか、設備投資や化石燃料費の根本的な見直しが必要になる場合もあります。
ここでは、環境省による中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブックをもとに、ポイントとなる手順を紹介します。
1.自社内の温室効果ガス排出量を洗い出す
2.省エネや再生エネルギーなどの燃料転換の削減計画を立てる
3.計画に基づき社内への理解や自治体、金融機関など社内外へ発信、共有する
今後、脱炭素化経営に取り組むにあたって、まずは長期的なエネルギー転換を検討し、そのうえで、省エネ対策や再生可能エネルギーの導入を取り入れていくことが重要です。脱炭素化という目標をきちんと共有することで、より実効的な削減対策が期待できるでしょう。
まとめ
脱炭素経営の取り組みは、気候変動の問題を解決するだけでなく、エネルギーコストの削減や企業の知名度向上、金融機関からの資金調達にも優位に働くなど、さまざまな効果をもたらします。
脱炭素の実現に向けて、新たなエネルギーを管理、最適化していくためにはデジタル技術を活用したDXが必要不可欠でしょう。まずは自社内での現状把握から始めて、どう取り組んでいくかをしっかり計画立てて行動することが大切です。